ハンガーに吊るされた服の上段の棚に、そのバッグは並んでいました。ブラウン系が多いアイテムの中、目を引く色合いが際立っていました。
レザーで横長のトート型のそのバッグ、令和の今ならその重さがまず、敬遠されそう。しかしながら、しっかりした質の皮革で、本体も金具のパーツを見てもあまり使い込まれた雰囲気のないお品でした。
内ポケットの形状をみる限り、スマホが普及する前、つまりガラケーの時代に販売されたのかな?と推測できます。内側の布張りには汚れもなく、へたりも感じられません。
何だか懐かしいたたずまいのそのバッグは、オールドコーチほどではないものの、堅牢さとオーソドックスでクラシックなデザインです。
ポケットの配置は工夫されているものの、令和のバッグに多い「運びたいものを運びやすい」方向性ではなく、バッグ本体が主役といった存在感がありました。
ああ、このタイプの商品はこの先、なかなか手に入らないかもしれない。
自分のお金で物を買い始めた頃ならまだ
そこかしこに流通していたはずです。時が流れ、合皮がエコレザーと呼ばれ、リサイクル素材や機能性素材が席巻する今はなかなかお目にかかれません。ライフスタイルや人の価値観の変化のせいか、供給困難からの品薄なのか、もはやわかりませんが…
ハッキリ言ってしまうと、今風ではなく、古くさいアイテムなのかもしれない。
それでも私にとっては、大事に使いたいと思わせる何かがありました。
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手に入れてから、エゴサーチならぬ「購入品サーチ」をしてみました。
このブランドはもう、バッグを販売していないと知りました。コロナ禍の最中にショップを閉めて、バッグから撤退したとのこと。最近は百貨店のバッグ売り場に行く機会もめっきり減って、なくなっていたことすら知りませんでした。
ネットのリサイクルショップでも一部、色違いや型違いが販売中でした。今回買ったものよりも使い込まれていて、シミや傷がついた品は数千円でしたが、同じデザインで大きいサイズの品には最高で2万円弱の中古価格がついていました。希少品というよりは、定価を起点にした値付けなのでしょう。
原料高に円安、全般的な物価高も重なっている今であれば、同じ質なら当時の定価よりもずっと値上がりしていたはず。そして、その値段であれば、かつてのように買い手はつかないだろうことも容易に想像できたのです。
時の流れと言ってしまえばそれだけです。ただ、ここのところ所持品を減らすべく、処分しようと思ったとき、どうしても手が止まるのです。かなり前に購入したものの質の高さに気づく機会が増えたからです。
世の中は間違いなく進化しているけれど、残念ながら質が低下している面もあります。
私自身はなつかしさや、慣れ親しんだ感覚から、古びたハンドバッグに惹かれたのかもしれない。そういう歳になったとも言えるけれど、どなたかの手を離れたそのバッグ、大切に使いたいと思います。