実家の母は、手土産を欠かさない人です。手ぶらで人に会うなんて…という価値観の持ち主です。
それだけに、頂き物を見る目が、とても厳しいように、私には思えてしまいます。今回は、そんな母の話。
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初めて出産した夏の日の午後、義父母がお見舞いに来てくれました。
義母が隣県から提げてきたのが、フルーツバスケット。
リンゴやみかん、パパイヤなどがセロハンにくるまれ、リボンで飾ったかごに入った、大きな包みでした。
赤ちゃんを囲んで写真を撮り、お茶を飲んで少しお話しして、義父母が帰ったあと、母はこう言ったのです。
「病院にこんなものを持ってくるなんて、ほんとに常識がないわね」
えっ?何ですって?
母の言い分はこうでした。
そのときは相部屋にいたのですが、病院にお見舞いの品を持っていくときは、同じ部屋の患者さんにおすそ分けができるような、同じ種類のものがたくさん入ったものにするべきである。
果物なんて人に簡単には分けられないし、ナイフで剥かなくてはならないものもあり、不便。ゴミもでる。
食べ頃もまちまちで、入院中に消化できないこともある。
などなど…
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私には、フルーツバスケットを選んだ義母の気持ちが、痛いほどよくわかりました。
母より10歳年下の義母。もともと果物好きで、私たちを訪ねてくると、三回に一回は季節のフルーツをお土産にしてくれます。
何かと口うるさく、儀礼にやかましい私の母なら、どんなものなら文句を言わないか、知恵を絞って、大枚はたいてくれたはずなのです。
現に世の中には「病人には栄養豊富で高級な果物を贈る」という、私の母とはまた別の価値観も存在します。
でも母は、非常識と断定してしまいました。
少し前のエントリで、お片付けのプロのかたに来ていただいた時、ふと私が「このかご、処分しようかなあ」と口走ったところ、母が即座に拾い上げて玄関に向けて力任せに投げ付けた~と書いたのは、この時のかごだったのです。
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思えば母はしょっちゅう、貰い物に一言、けちをつけていました。
瀬戸内海沿岸にお住まいの方ならお馴染みの「いかなごのくぎ煮」を、春先になると山のように炊いて、知人友人に配る母。
友人から「いかなごにたくさん使ったでしょ?」とお返しにいただいたお醤油を見て、ひとこと。
「使うお醤油は決まっているんだから。何でも良い訳じゃないのよ」
大学入試のために実家に泊めてあげた私の友人が、手土産として持ってきた塗り盆は
「何。こんな安物」
で片付けられました。
母にとって、手土産というのは、渡したという事実だけで役目を果たすものではなかったようです。
貰い手が納得するものでなくてはならない、そう考えていたようです。
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でも母には、見落としていることがあります。
地域性もあり、お酒に縁が深い実家は、良質な酒粕が手に入りやすいので、母はいろんな方に差し上げていました。
粕汁も作れるし、甘酒にもなる。市販のものより、ずっと美味しい。灘五郷の高品質な酒粕だから、そう言葉を添えて。
でも…いったいどのくらいの人が、今時酒粕を使いこなすのでしょう?
私が母に言われてお配りした方々には必ず、聞かれたものです。
「初めて見たんだけれど、どうやって使うの?」
母にとって、馴染みも深く、もらってありがたいものかも知れませんが、相手にとって、そうはなっていない。
彼女が一言けちをつけるのと同じように、貰い手は正直、困惑していたのです。
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ある時、義母が私の母に、お中元とお歳暮はお互いになしにしましょう、と提案してきた、というのです。
変なところは保守的な私の母、「男性の側(娘の嫁ぎ先)からそう言われたら、従うしかないじゃない」といいつつも、不満げでした。
「だって、贈り物が届いて、お礼の電話でもかけるときでないと、話題も連絡の口実もないでしょ?」
うーん(-""-;)
分かってないなあ…
おそらく義母は、面倒くさくなってしまったのです。
品定めは負担だし、結局何を選んでもとやかく言われる(こういうのは、面と向かわなくても、ニュアンスが伝わりますよね…)、お金と手間ひまかけてまで、年二回もしなくても…
しかも、届くものはというと、うーん…
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贈り物って、本当に難しい。
我が母のような、手ぶらで人に会うなんて考えられないというひともまだまだ絶滅していませんし。
日本は特に見栄社会ですから、ちょっとしたプレゼントではすまされない、老舗の名品を用意しなくてはならない場面もあります。
でも…
やっぱり忘れたくない。
自分の選んだものや贈り方が、独りよがりになる可能性があること。
必ずしも、こちらの期待通りに喜んでもらえるとは限らないこと。
だから、贈り物は本来、受け渡しのその瞬間に役割を終える、そう思う必要もあるのかな、と感じます。
送り手のもとを離れ、受け取り側に移ったその時、もう普通のモノに化ける…それで良い、と双方が思っていれば、案外しがらみや期待から解放されるのでは?
※
密かに思うこと。
実母と義母が、それぞれ逆でなくてよかった、と振り返って安堵しています。
夫には気の毒ですが(((^^;)