日々是呼吸


詩 (香りの記憶)

「みんな」が良いというものに無邪気に飛び付けない、そんな自分に気が付いたのは、ずいぶん幼い頃でした。

テレビのアニメとか、流行のオモチャ、キャラクター付きの文房具。
そういうのものを素敵とか可愛いとか思うのは「良くないこと」だから、欲しがったりしてはいけない、物心ついたときにはもう、そう信じていました。

健気な、親の娘をずっとやってきたのです。

*****

その香りがデビューしたとき、トップノートからラストまで、香りが変わらない、というメッセージ、コントラストのあるテーマカラーが鮮烈な印象を放っていました。

働き始めて、初めての夏が近付いていたその頃。
春先の淡い思いを上回る、そんな視線を注がれたのはいつが最初だったのか。
おだやかで、はにかんだ、でもほんの少しだけ切ない、そんな親愛の情でした。

***

近づいてはならないはずなのに、気がつけばそばにいて、待っている。

考えすぎ、気にしすぎ。
偶然が重なっただけ。

何度もそう思って、自分に思い込ませようとして、気づかなかったふりをしたあの頃。

この香りがこっくりと広がるかのような夏の終わりのあの暑い日、ごまかしきれなくなった、ちょうどその瞬間に。

まさか、あり得ない、そんな思いをはっきり伝えられたのでした。

****

仮に私が、その香りと同じブランドの代名詞ともいえるこちらの香りを選んでいたなら。

私はもしかしたら、全く違うシナリオを呼び寄せていたことでしょう。

お妃に内定されたあの方ご愛用と言われていた、その大人気の香りを、何の躊躇もなく手に取り「私の香り」と言い切れるような、無邪気な人々に連なることができたなら。

****

名香と呼ばれながら、この香りはもう、廃番になったと知りました。

ずっと使い続けていたのに、止めてしまったのは、私なりの物語が重なって、そして重ならなくなったからだと思います。

ボトルのデザインは線がすっきり、それでいて柔らかい手触りでした。

手放すことをためらったものの、もう私のそばには置場所が見当たらない。
そう気が付いたとき、ボトルを紙箱に収め、部屋から出す荷物にまとめることができました。

****

あの香りに街で出会っても、私はおそらく、気が付かないことでしょう。
でもその名前を目にするとき、船を臨む桟橋での夏の終わりの夕暮れと、あのまなざしが、一瞬だけ浮かび、そして砕け散っていくのです。

ランコム Poeme
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by cocue-cocue | 2014-08-09 07:30 | お気に入り | Comments(0)

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